鎌倉・建長寺発祥の禅文化:坐禅や精進料理で古来の教えを感じる
Guideto Japan
800年以上の歴史ある古都・鎌倉(神奈川県)は、武士が崇敬した禅宗の聖地。禅宗寺院の中で最も格式高い建長寺を訪ね、境内の風景や修行の中に「禅の心」を感じたい。
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宗教都市の中核を成す鎌倉五山筆頭
相模湾に面し、三方を山に囲まれた鎌倉は、狭いエリアに123もの寺院が肩を寄せ合う。中でも鎌倉幕府が庇護(ひご)した臨済宗は42寺と3分の1を占める。
建長寺の三門(山門)。後ろに並ぶ仏殿、法堂(はっとう)、唐門と共に国の重要文化財に指定される 写真=原田寛
臨済宗は、後の時代に開宗した曹洞(そうとう)宗、黄檗(おうばく)宗と共に、坐禅(座禅)修行によって悟りを目指すことから「禅宗」と呼ばれる。鎌倉幕府が禅宗寺院を格付けした「五山制度」では、第1位の建長寺から順に円覚寺(えんがくじ)、寿福寺、浄智寺(じょうちじ)、浄妙寺の5寺が選ばれた。
鎌倉五山はいずれも存続しているが、中でも建長寺は筆頭にふさわしい風格を保つ。日本初の禅の専門道場として、1253(建長5)年に創建された当時の文化も色濃く残っている。
境内最奥の高台から一直線に並ぶ伽藍(がらん)を望む 写真=原田寛
実際に訪れると、あちらこちらに禅宗寺院の代表的な要素が感じられる。その一つが伽藍の配置。総門、三門、仏殿、法堂、方丈などの主要な建物が一直線に並んでおり、典型的な中国禅宗様式をとどめている。
三門から仏殿へと続く参道の両脇には、寒さに強いヒノキ科の常緑樹・柏槙(ビャクシン)の木が整然と並ぶ。その生命力を貴ぶ中国禅宗にならい、開山の蘭渓道隆(らんけい・どうりゅう)が宋(当時の中国)から携えてきた苗木を植えたと伝わる。樹齢は760年を超え、幹回りは7メートルにも及ぶ堂々たる姿は、貴重な創建当時の記念碑ともいえる。
参道右手の鐘楼にある梵鐘(ぼんしょう)は、1255(建長7)年の鋳造で国宝の指定を受ける。古調の優美な形が特長で、同じく国宝の円覚寺の鐘、市内最古の常楽寺の鐘と共に「鎌倉三名鐘」と呼ばれている。
仏殿に安置する本尊は、死後の世界で亡者を救うと信じられている地蔵菩薩(じぞうぼさつ)。禅宗寺院の本尊は釈迦如来(しゃかにょらい)が一般的なので非常に珍しい。
台座を含めて約5メートルの本尊・地蔵菩薩(仏殿は2027年7月までの予定で補修工事中) 写真=原田寛
境内を奥へと進むと、かつては住職の居室だった方丈があり、裏手の庭園では芝生が池を囲んでいる。日本庭園といえば苔(こけ)むしたイメージがあるが、それは近世以降に広まった様式。芝を敷いていたとする専門家の意見を参考に、古い時代の庭園様式を復興したという。
池を中心にした建長寺庭園は国指定史跡・名勝。現在、橋は架かっていない 写真=原田寛
坐禅のみならず日々の食事も修行
境内東の丘の上にある道場では、今も僧侶たちが日々、坐禅を中心にした厳しい修行に励んでいる。日常の食事は一汁一菜と簡素で、肉や魚など動物性の食材は一切口にしない。調味料もすべて植物由来のものを使う徹底ぶりだ。
汁物はシイタケや昆布でだしを取り野菜や豆腐などを入れた「けんちん汁」で、栄養も食べ応えも十分。今や全国的に家庭の味として定着しているけんちん汁だが、「けんちょう汁」が語源とされ、建長寺発祥の鎌倉名物である。
また、食事には必ず大根の漬物「たくあん」が添えられる。注ぎ入れた湯とたくあんで器の中を掃除してから、最後に湯ごと飲み干し、米一粒たりとも残さないのが決まり。修行僧たちは生き物の命を大切にする、無駄をなくすという、古来の禅の精神から生まれた習慣を厳しく守っている。
毎年1月には三浦半島の大根農家を回って托鉢(たくはつ)し、たくあんを作る 写真=原田寛
修行の邪魔になるため、僧堂に続く参道は立ち入り禁止。ただし、境内のボタンが満開になる晩春だけは特別に参拝者が散策できる。
参道のボタン。見ごろの時期は神聖な修行場に足を踏み入れるまたとない機会 写真=原田寛
境内にはさまざまな禅の文化が凝縮しているが、やはり最も重要なのは基本修行の坐禅である。背筋を伸ばして姿勢を正し、呼吸を整えるに従って、自然と邪念が払われて心が落ち着く。建長寺では毎週金曜と土曜に、初心者でも参加できる坐禅会を開催している。日本最古の修練の場で静かに坐せば、日常を忘れて己と向き合う新鮮な体験が得られるだろう。
坐禅体験は金曜・土曜の午後3時30分から1時間(開始15分前に集合)。予約不要、拝観料のみで参加できる。事前に申し入れすれば椅子を用意してくれるので、畳に坐れなくても安心 写真=原田寛
写真・文=原田寛
バナー写真:境内正面からの伽藍展望 写真=原田寛
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