トランプ政権100日:戦後国際秩序の破壊が進む
第2次政権発足100日を過ぎたトランプ米大統領の行動が世界を翻弄している。恣意的な高関税措置は国際経済を大混乱に陥れた。外交・安全保障でも同盟・友好国を離反させ、ロシアや中国をのさばらせるような方向に向かいつつあり、国際秩序の崩壊が懸念されている。
- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
迷走続きの高関税措置
「タリフマン(関税男)」を自称するトランプ大統領は4月初旬に、2期目の目玉とする「相互関税」を発表し、「最大の脅威」と位置付ける中国には累計145%もの関税をぶつけた。
だが、大きな問題は日欧を含む同盟・パートナー諸国や中国周辺のアジア諸国などに敵・味方の見境なしに高関税を押し付けたことだ。得意の「ディール」(取引)に持ち込む狙いとはいえ、世界を敵に回すかのような姿勢は、米国の株式、債券、通貨がそろって下落する「トリプル安」を引き起こした。
あわてたトランプ氏は、中国以外の国々に対しては、上乗せ関税の適用を「90日間猶予する」と発表するなど、朝令暮改の迷走を続けている。第二次大戦後に米国自身が主導してきた自由貿易体制は日々むしばまれている状況だ。
一方で中国は125%の報復関税を掲げて真っ向から受けて立つ強硬姿勢を打ち出した。しかも中国は「トランプ関税は自由貿易の原則を無視した弱者いじめ」と決めつけ、「反いじめ連帯」の結成を狙って欧州、アジア、中南米などで国際社会の共感や反米感情をかりたてるしたたかな外交戦略に乗り出している。
これまでは中国の不公正貿易を米国が攻め立てる図式だったのに、攻守が入れ替わってしまった。なおかつ、アジア諸国の信頼も失われ、米国を弁護・支援しようとする国はほとんどない。世界経済全体の減速を予測する声が強まっている。
武力による併合を容認か
弱者を力で屈服させる姿勢は、外交・安保面でも露骨だった。2月末に米・ウクライナ首脳会談が決裂すると、同国への軍事支援を一時停止するなど、和平協議を仲介するトランプ政権の対応は一貫してロシア寄りが際立っている。
欧米メディアによれば、4月末に米国が示した和平案は、ロシアが2014年に武力併合したクリミア半島の領有を承認し、今回の侵略で占領した東部4州についても実効支配を認める内容とされる。これを拒絶したウクライナのゼレンスキー大統領について、トランプ氏は「和平交渉に有害」と非難した。
「武力による現状変更」は、世界の平和と安全を守るために国際社会が一貫して「許してはならない」としてきた最重要の基本ルールである。クリミア併合を容認すれば、台湾の武力併合を辞さない中国にとって、悪しき前例とされかねない。トランプ1期目の2018年、ポンペオ国務長官(当時)が「国際法に反して武力で奪った領土にはロシア主権を認めない」としていた宣言(※1)とも矛盾している。
極め付きは、「ウクライナ戦争を24時間で終わらせる」と豪語したことについて「面白半分で言っただけだ。みんな分かっていた」(米誌会見)(※2)とトランプ氏が言い放ったことだ。ロシアの非をとがめようとせず、主権・領土の尊重、法の支配といった基本原則を顧みないトランプ外交には大義が認められない。
資源開発協定の調印によってウクライナとの関係は修復に向かったものの、欧州諸国は同盟の価値や安全保障を巡って、対米関係の全面的見直しに動き始めている。
「米国離れ」が進む懸念
北朝鮮は4月下旬、ウクライナ軍との戦闘に北の部隊が派兵された事実を初めて認め(※3)、ウクライナ戦争は今や朝鮮半島を含む東アジアの安全保障に直結する問題と化した。朝鮮半島有事の際には、北を支援するロシアの直接軍事介入も想定せざるを得なくなり、日米韓にとって重大な課題だ。
トランプ政権内では、中ロ、イラン、北朝鮮などとの対決を重視するルビオ国務長官らの「対外タカ派」と、対外関与の縮小を求めるバンス副大統領らの「国内回帰派」を含む派閥対立もあって、一貫した外交戦略を打ち出すには至っていない。
安全保障にせよ、経済・通商にせよ、中ロや北朝鮮などと対抗していく上で米国に最も必要なのは、同盟・パートナー諸国との協力と連携の輪を拡大・強化することだ。だが、米国の今の対外イメージは「友人の振る舞いではない」(相互関税に対するアルバニージー豪首相)との受け止め方が圧倒的だ。
そうした現状がもたらす危険について、トランプ政権の認識は極めて希薄だ。石破茂首相は4月末の東南アジア訪問を通じて、フィリピンやベトナムなどの対米不信や米国離れを食い止める外交を展開した。同盟国として適切な側面支援とはいえるが、それだけでは国際秩序の崩壊は防げないだろう。日米直接交渉においても、関税だけでなく、米国の世界認識全体の誤りを正していく対米戦略が求められる。
バナー写真:各国に高関税を提示して世界が混乱する中、バチカンでのフランシスコ・ローマ教皇の葬儀に参列したトランプ米大統領とメラニア夫人(中央)=2025年4月26日、バチカン(AFP=時事) 青いスーツ姿は、ドレスコード違反だと指摘された。
Latest Nippon News (jp)
- 今日は何の日:5月15日沖縄が本土復帰1972(昭和47)年 敗戦後米国の施政権の下にあった沖縄が、71年の佐藤栄作首相、リチャード・ニクソン米大統領による沖縄返還協定調印に基づき、日本に返還された。通貨は米ドルから円に替わり、本土との往来にパスポートは不要になった。これまでさまざまな振興策が実施されてきたが、返還50年以上を経てもなお、「基地の島」の現実からは逃れることができない。関連記事沖縄基地のもう一つの現実 : ...
- 今日は何の日:5月14日昭和の大横綱大鵬が引退表明1971(昭和46)年 第48代横綱大鵬が引退会見。前日、大相撲夏場所で、小結貴ノ花(当時)に敗れたのが現役最後の一番となった。1960年代に活躍し、ライバル柏戸とともに「柏鵬 (はくほう) 時代」を築いた。優勝32回、6連覇2回、45連勝などを記録し、昭和の大横綱と称された。69年、優勝30回を記念して日本相撲協会から一代年寄「大鵬」の名跡を贈られた。→ こち...
- 2025年のプロ野球選手平均年俸は4905万円:前年比4.1%増―選手会調査平均年俸は前年に比べ192万円(4.1%)の増加。総額は355億5888万円で、総額としては過去最高を更新した。リーグ別ではセントラル・リーグが4.2%増の5128万円(359人) 、パシフィック・リーグが4.2%増の4685万円(366人)で、3年連続でセが上回った。年俸の中央値(725人中で真ん中の順位にいる選手の年俸)は1900万円で、前年より100万円増加した。平均年俸は、1986年に10...
- 「もろ刃の剣」SNSが日本人の政治意識・投票行動に与える影響インターネットは政治参加を活性化させる?民主政の「主人公」は私たち有権者であるが、政治闘争や政策形成の現場を直接見聞きする機会は限られるため、それらに関する情報の入手は各種メディアに頼らざるを得ない。日本の国政選挙時に「明るい選挙推進協会(明推協)」が行っている全国調査((明るい選挙推進協会(2025)『第50回衆議院議員総選挙全国意識調査―調査結果の概要―』。))によれば、有権者が政治や選挙に関...
- 『トワイライト・ウォリアーズ』のヒットに見る香港映画とアイデンティティーの現在『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』はなぜ日本でヒットした?香港映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』が、1月17日の劇場公開後、3カ月で興行収入4億円を突破した。当初は中規模の上映だったが、熱狂的な口コミやリピーター効果を受けて上映館を拡大し、4月には日本語吹き替え版の上映も始まっている。香港映画が日本でこれほどの話題を呼んだのは約20年ぶり。もともと香港では興行収入1億1...
- 日産、過去最大に迫る6708億円赤字に転落―25年3月期 : 国内含む7工場、2万人を削減へ日産自動車が5月13日発表した2025年3月期決算(連結)は、売上高が前期比横ばいの12兆6332億円で、純損益は6708億円の赤字(前期は4266億円の黒字)に転落した。赤字幅は過去最大だった2000年3月期の6843億円に迫る。新モデルの投入が遅れ、中国や米国などで販売が落ち込んだほか、国内外の工場などの資産価値を見直し5000億円を超える減損処理をした。業績の悪化を受けて、日産ではリストラを...